いきなり申し訳ないのですが、今日は歴史の話からさせてください。
永禄3年(1560年)5月19日、まだ当時は尾張(名古屋周辺)地方の小大名に過ぎなかった織田信長が、西上する今川義元の大軍を打ち破り、その名を全国に知らしめたのが、有名な桶狭間の戦いです。今川氏といえば足利将軍家の一門に連なる名族です。大軍が雨で足止めを食らうという情報から、一瞬のタイミングを逃さずに攻撃した、思い切りと情勢判断の見事さが語り継がれていますね。
ところで、桶狭間古戦場と伝承されている地は、今の中京競馬場のすぐそばにあたります。それから445年後、平成17年5月21日、メイセイオペラの子供が始めてJRAの勝ち馬として蹄跡を刻みました。その名はカネトシスマイル。父も地方所属、母リュウコウサクラも地方所属、鞍上の吉田稔騎手も公営名古屋競馬のジョッキーです。そして、現代日本競馬にとって将軍以上の絶対的な存在、サンデーサイレンスの血を引く馬たちを抑えて勝ったのです。もちろん、これは鮫島先生の仕上げと、脚質にあった馬場や距離などのレース選択、すなわち情勢判断の勝利といえるでしょう。
1つだけ、桶狭間と違うところを挙げるとするならば、信長は奇襲戦で、スマイルは開幕週の高速馬場で逃げを打つという正攻法で、それぞれ勝利を収めたというところになるでしょうか。
さて、メイセイオペラの子供が芝のレースでJRA初勝利を挙げた…という事実に対して、様々な反応がありうると思い、いろいろな情報を見ていました。やはり、大方の見方は、メイセイオペラに芝適正という可能性が隠されていたことが、驚きをもって迎えられているように思います。
ですが、これをもってメイセイオペラが芝適正を有する種牡馬で、可能性が広がった、と言い切るのは、少し違うのではないかと思います。むしろ、もっと大きな見方をしてあげたいと思うのです。
皆さんは、種牡馬を評価するにあたって、何をもって「いい種牡馬」と評価されますでしょうか。
父の能力や適正をそのまま遺伝させることが、「いい種牡馬」であることにプラスの評価を及ぼすことは紛れもない事実です。しかし、それだけでは十分ではないと思います。例えば、サンデーサイレンスが自分の能力をそのまま伝えるだけなのだとしたら、主戦場はダートだったのかもしれないのですから。
私は、もっと重要な評価基準として、「母馬のよさを引き出し、母馬の欠点を補う」ことが挙げられるのではないかと思います。馬は父と母がいてはじめて生まれるわけで、種牡馬の能力だけで血統論を語り得るのは、ゲームの中だけではないかと思います。むしろ、母親からの遺伝要素の方が大きいのかもしれません。競馬界で、父を同じくしても母が違えば兄弟とは呼びませんが、母を同じくすれば父が違っても兄弟と呼ぶことが、それを如実に示しているようにも思えます。
そこで、今回のカネトシスマイルの勝利について母馬から見直してみると、どうなるでしょうか。この馬の兄、チキリテイオーはラジオたんぱ杯2歳Sで後の菊花賞馬、ザッツザプレンティの2着に入った馬です。ですから母親からは芝も走れる産駒も出ています。
そして、母の父はサクラユタカオー。毎日王冠と秋の天皇賞を連続レコード勝ちし、左回り中距離を得意としていた馬です。私の中では、エアジハードやウメノファイバー、トゥナンテと左回りで活躍した馬がよく出ていることが印象に残っています。そして、今回のカネトシスマイルが勝った舞台は中京芝2000m、まさに左回りの芝なのです。
思えば、JRAのかえで賞(京都芝1200m)勝ちのあるスバルマドンナの仔、ヨシノカチボシは、芝のマイル前後向きで京都で2度入着しています。これも、ちゃんと母系の良さを引き出すことができた例として、考えられるのではないでしょうか。
もちろん、これからの注目は、「母馬の欠点を補う」ことができるかにあると思います。そして、メイセイオペラの最大の武器は、ダート適正よりも、持続する成長力ではないかと思います。カネトシスマイルを引き合いに出していうならば、兄のチキリテイオーは3歳になってから伸び悩んでしまいましたが、スマイルがこれからどんどん強くなっていけば、それは父メイセイオペラが欠点を補った、と評価してもいいはずです。そのときこそ、メイセイオペラが「いい種牡馬」であることを、胸を張って言えることになるのだと思います。
ところで、織田信長は桶狭間での勝利の後、尾張の小大名から一躍、天下取りへの道を歩み始めます。カネトシスマイルは、中央未勝利勝ちの賞金だけで、国内のメイセイオペラ産駒の賞金王に上り詰めてしまいました。市場取引時の落札価格の350万円も軽く超える金額です。
これから、どこまで伸びてくれるでしょう。信長のように上洛して天下取りができるでしょうか。秋の京都には、小回り2000mという、この勝利からすれば絶好の天下取りの舞台があります。まだそこを夢見るには道のりは長いですが、夢は見てもいいはずです。私もスマイルの初勝利で、夢を1つ正夢にすることができました。夢は見なければ正夢になりません。だから今は大いに夢を見ましょう。